47歳独身、27年間捧げた最後の日

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「Fさん、ちょっといいかな」

G店長から急な呼び出し。
いつもより何だかよそよそしい低い声で、事務室の方に手招きされた。

その瞬間に「なんか嫌な予感…」って、本能的に悟った。

事務室には埃っぽい段ボールがいくつも積み重なり、誰かが置き忘れたボールペンがテーブルの上に放置されている。

パイプ椅子の座面は氷みたいに冷たい。

「Fさん、9月で契約終了となります…。申し訳ないね。」

G店長はそう告げ、手元のバインダーの端っこを爪でカリカリと弄っているだけで、一度も私の目を見ることはなく、その後はただ沈黙の時間が流れていった。

27年間… 、どれだけの時間をこの場所に使ってきたのか…。
土日も、お盆も、クリスマスも。

独身の私に「予定ないでしょ!?」というG店長の冷たい言葉に押しつぶされながら、誰かが休むたびにシフトを埋められていた。

あの時、「私にも予定があります」って、一度くらい突っぱねておけばよかった。
いい顔して、便利に使われて…、結局これか。

事務室を出ると、店頭にはいつものBGM。

辺りを見渡したら、A子がいた。
5歳下の後輩だ。

仕事のミスを庇った事もあったし、仕事や家族の愚痴をいつも聞いてあげていた。

そんな、一番仲がいいと思っていたA子から「Fさん、大丈夫ですか?」、なんて心配して声をかけてくれるかと思っていた私が馬鹿だった。

A子は私と目が合う直前に、スッと視線を逸らした。
そして、隣にいた人とひそひそ話をして笑ってる。

「Fさん頼りになります~」なんて言葉に浮かれて、高い焼き肉も、誕生日プレゼントも…。
あんな人に奢るんじゃなかった…。

今、あの数万円が私の通帳にあれば、と後悔した。


そして、あっという間に勤務最終日。
いつもと変わらず、何事もなく勤務は終わった。

使っていたデスクやロッカーから荷物を出し、きれいにウェットティッシュで拭いた。
27年間ありがとうの気持ちで。

タイムカードをガチャンと押す。
この音が、27年間の終わりを告げる鐘の音みたいに聞こえた。

「お疲れさまでした。」

誰もいない事務室で小さくつぶやいて外に出た。

外は雨。傘は持っていなかった。
最悪のタイミングだ…。

駅までの帰り道、雨に濡れながら早歩きする。

駅付近にあるスーパーにいつも立ち寄って買い物をしていた。
今日でこのスーパーに寄るのも最後だ。

「あ、アジフライが「30%引き」だ。」

27年間働いて、未だに半額シールを追いかけている自分。
気持ちをすり減らしながらも頑張って働いていたけど、ずっとギリギリの生活。

もっと早く、副業でも資格でも、「外の世界」に手を伸ばしておけばよかった。
アルバイトから契約社員になった、という状況に安心して、転職や別の仕事なんて全く考えたこともなかった。

仕事なんて探す宛も無ければ行動力も無い。

この年齢でこの状況…。
全部、全部…私が悪いんだ。

自己嫌悪に陥った私は、気分転換しようと思い、デパートに行った。

キラキラした照明。

オシャレなショップ。

香水の匂い。

でも。
私は明日から無職。貯金は50万円程しかない。

だけど.

「私にはまだ、これくらい買える価値がある」。

緊張して震える手で、5万円のバッグを買った。

買ってしまった…。

本当にこれでよかったのか?
結局、とてつもない後悔と虚無感に襲われながら、雨の中帰宅した。


さっき買ったバッグを床に転がしたまま、薄暗い部屋で電卓を叩く。

家賃、光熱費、携帯代、保険……。
貯金50万円。

それと、来月に入る最後の給料と、失業保険…。

合わせたところで…半年。持っても半年。
これからどうする…!?

47歳。職歴は今までの仕事だけ。資格もない。
(何度も何度も生活費を計算し直し、5万円のバッグを買った自分を殴りたいほど後悔している…)


窓の外、朝の4時。

カーテンの隙間から空を見ながらスマホを確認する。
A子からLINEが入っていた。

「お疲れ様でしたw 明日から新しい人が来るのでご心配なく」

短い文字…。
私をあざ笑うかのような嫌味な文章。

私が27年間使ってきたデスクやロッカー…。
分かりやすく整えた従業員用のマニュアル…。

明日からは、私の知らない人がそれらを当たり前に使い、私の存在は1秒で上書きされる。

手元に残ったのは、雨に濡れてしまった5万円のバッグと、
貯金残高50万円。
使い物にならない47歳の自分。

明日、何時に起きればいいのかさえ、もう分からない。

A子のために、じゃなくて、自分のために1円でも多く貯めておけばよかった。
「いつか報われる」なんて幻想を抱かずに、この店を踏み台にしてやればよかった。

もっと、自分のことだけ考えて、ずる賢く生きておけばよかった。

あぁ、本当にもっと早くから人生を考えておけばよかったー!

私の人生は、これからもずっと“後悔”という言葉が残り続ける。

私の27年間は、まるでゴミ箱に捨てられたアジフライのパックと同じ、“ただのゴミ”となった。



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