ホストにハマってしまった38歳主婦の末路。裏切りのシャンパンタワーと、リボ払いが招いた雨の夜の破滅

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「なぁM美、最近パートの愚痴ばっかり聞いてて疲れるんだよね。少しは考えてくれないか。」

平日の夜、夫のK司はテレビから目を離さないまま、冷たく言い放った。

(はぁ~!?何あの言い方!ムカツク~!)
2歳年上のK司と結婚したのは7年前。子供はいない。


結婚当初は一緒にドラマや映画を観ては、何時間も感想を言い合ってたっけ…。
いつからか夫婦の会話は減り、冷めきった空気の中、ただテレビの音だけが流れていた。


私の存在意義って何なんだろう。
私はただの家政婦!?
パート代を生活費に入れるための機械なのだろうか。

そんなある日、職場の若いパート仲間に「嫌なことは忘れて、ストレス発散しに行こうよ!」と半ば強引に連れ出されたのが、ネオン煌めく大都会にある眠らない街だった。

「ホストクラブなんて行って大丈夫??」
「たまには楽しまないと!」

煌びやかな外装、高級感漂う赤い絨毯。
重厚な扉を開けると、そこにはドラマや映画でしか見たことの無いキラキラした世界が広がっていた。

「初めまして、Jです。お姉さん、目がすごく綺麗だね。でも……なんか、寂しそうな顔してる。俺で良かったら、何でも話して?」

Jは私より14歳も年下。
驚くほど端正な顔立ち、少しハスキーな甘い声。

初めは緊張していたけど、久しぶりにお酒を飲んで気分が良くなった私は、溜まりに溜まった夫の愚痴を吐き出して、グラスに入ったシャンパンを一気に飲み干した。
そんな私を優しく微笑みながら、Jは目を見つめて話を聞いてくれた。

私の話を夫は何年も真剣に聞いてくれなかった。
それなのに、ついさっき、たった10分前に出会ったばかりの彼は、私に寄り添って聞いてくれた。
優しく私のことを受け入れてくれた、そのことが何よりも嬉しかった。

「初回は500円で飲み放題だからさ、リラックスして今夜は一緒に楽しもうよ!」

ワンコイン!?
正直、ホストクラブなんてキラキラしたお金持ちが行くイメージだし、私みたいな庶民は適当にあしらわれるだけかと思っていたけど…。
私はたったの500円で「お姫様」になれた!
生まれて初めて、自分が一人の女性として肯定されたような、脳が痺れるような快感が走った。

これが、底なし沼への入り口だとは知らずに……。



「M美ちゃん、今夜は楽しかった?俺、M美ちゃんみたいな純粋な女性といると落ち着くんだ。また会いたいな。」

その夜から、JとのLINEが始まった。
朝の「おはよう」から、「お疲れ様」、そして「おやすみ」。

夫は今日も不愛想な顔でテレビを観ながらスマホをいじっている。
私はJから優しく甘いLINEが届くたびに、喜びが表情に出てしまわぬように必死に堪えていた。

J:『M美ちゃん、今何してる?俺、次の締め日、どうしてもランクインしたいんだ。M美ちゃんがお店に来てくれたら、俺、絶対に頑張れるのに……』

私、必要とされている…。Jの役に立ちたい。


パート代を必死に貯めた私の個人口座から「3万円」を引き出した。
大半は生活費に消えてしまうし、コツコツ貯めた3万円は私にとっては大金だ。

最初のうちは、ほんの小さな息抜きのつもりだったのに…。

2ヶ月が経つ頃には、私は週に2回、Jに会うためにホストクラブへ通うようになっていた。

店に行けば、Jは私を抱きしめてくれる。
そして耳元で「愛してる」「M美が一番の支えだよ」「旦那と早く離婚して、俺のところに来てよ」といつも言ってくれた。

Jのためなら、いくらでもお金を出せた。いや、出さなければいけなかった。
ホストクラブでお金を払わなければ、Jを見つめることも、触れることもできないからだ。

「Jくん、今月はもう貯金が厳しくて…お店行けないかも…」

そうLINEすると、それまで頻繁に来ていた連絡が、待っても待っても来ない…。
結局Jからの連絡が丸一日途絶えてしまった。

パニックになった。
完全に頭の中がJくんでいっぱいになっていた。
(Jくんに見捨てられる…。Jくんがいなくなったら…。またあの地獄のような毎日に戻りたくない…。)

焦った私は、クレジットカードの「リボ払い」に手を付けた。
『月々一律5,000円のお支払いで、今すぐお買い物!』
そんな甘い広告を信じて、カードの決済をすべてリボ払いに切り替えた。限度額は50万円。

「これなら、毎月の支払いはパート代から出せる。夫は無関心だしバレることはない。」

そう自分に言い訳をして、店で1回10万円、20万円のボトルをオーダーした。
Jは「さすがM美!俺の最高のお姫様だ!」と喜んでくれた。
その笑顔が見られるなら、リボ払いの数字なんてどうでもよかった。


しかし、お金の恐怖はその後ジワジワと襲ってきた。

3ヶ月後、ふとスマホでカードの明細を見てみた私は、息が止まった。
「……え?なんで……?」

毎月必死に1万円ずつ返済しているはずなのに、利用残高が「49万円」から全く減っていない。
それどころか、毎月の支払いの大半が「手数料」という名の金利で消えており、元金が全然減っていなかったのだ。

さらに、別の2枚目のクレジットカードもすでに天井。
サラ金の無人契約機にも駆け込み、夫に内緒で50万円を借り入れたが、それもJの「今月の売上ピンチなんだ、助けて」の一言で、たった1晩で泡となって消えた。

スーパーで「20円引き」の見切り品を探していた私が、ホストクラブでは「Jくんのためなら!」と1本10万円のシャンパンを笑顔で注文する。

金銭感覚は完全に麻痺し、脳のブレーキは粉々に吹き飛んでいた。



「Jくんの全てを知りたい。Jくんは私だけのもの!」
私の中から理性が完全に消え去っていた。

私はJが過去にSNSに投稿した写真を血眼になって調べはじめた。
写真の端に写り込んだ電柱の形、窓の外に見える特徴的なビル、ベランダの手すりの色、
そして、いつも通っているスポーツジムやコンビニの店舗、投稿の時間と店までの距離やルート。

数日間の狂気的なリサーチの末、私はついに某区の9階建てマンションを特定した。

「ここだ!ここがJくんのお家……見つけた……!!」


マンションの向かいにあるコインパーキングの物陰が、私の「定位置」となった。

パートの時間を昼間に変更し、夜から明け方にかけてはJの自宅を監視するためだけに費やした。
夫には「パートのシフトが夜勤に変更された。」と嘘をついた。
夫のK司は「ふーん。」と冷たい返事。
いつものように私には一切無関心なことが、かえって今の私には好都合だった。


こうして私の日常は、Jに対する“愛”という名の“狂気”に完全に支配されていった。


Jが住んでいるマンションは見晴らしのいい大通り沿いにある。
眺めがいい分、Jの部屋番号も簡単に特定できた。

「おかえりなさい。」
部屋の明かりが点く時間を1分単位でメモ帳に記録した。
Jがエントランスから出てくる姿を、スマホの遠隔カメラでズームして録画。
Jが通り過ぎた後に漂う残り香を嗅ぐだけで、全身の細胞が歓喜で震えた。


さらに、狂気はエスカレートしていく。

深夜、Jが出勤して不在の時間を狙い、私はマンションの敷地内にある住人用のゴミ捨て場に忍び込むようになった。
積み上げられたゴミ袋の中から、透けて見えるお菓子のパッケージや、ゴミ袋の結び目を見ただけで“これ”と分かるまでになっていた。

「Jくんのゴミは……これだ!」


私はそのゴミ袋を素早く自分のキャリーケースの中に入れ、近くの薄暗い公園の公衆トイレに駆け込んで、中身を一つずつ床に広げた。

「Jくんが食べたコンビニの弁当……Jくんが飲んだ栄養補助ゼリー……」

Jが口に触れたものを指でなぞり、恍惚とした表情でため息をつく。
だが、ゴミの中から口紅が付いたジュースのストローや、長い髪の毛が見つかった瞬間、私の目は血走り、歯がガチガチと震えだした。

「女……?誰?あの店にいた太客?それとも、別の女を家に連れ込んでいるの……!?」

確認せずにはいられなかった。

私はマンションのオートロックを住人が入る一瞬の隙を突いてエントランスをすり抜け、エレベーターでJの部屋の階へと上がった。

「905号室…」
Jの部屋の前に立つ。心臓がバクバクと暴れる。
私は深呼吸しながら、そっとJの部屋の玄関ドアに自分の耳をぴったりと押し当てた。

「……っ……!」

中からかすかに聞こえる、テレビの音、足音。Jくんがこの壁の向こうにいる。
もしかしたら、女と一緒に…。

ドアノブをガチャガチャと回したい衝動がどす黒いマグマのように溢れるのを、爪がくい込んで血がにじむほど拳を握りしめて耐えた。

「Jくん、Jくん、Jくん……私はこんなにお金も人生も削って、あなたのことだけをずっと考えているのに、何であなたは部屋の中で他の女と一緒に笑っているの……?」


狂気の生活が始まって5ヶ月、激しい雨が地面を叩きつける、ある10月の夜だった。
私はいつものように、Jのマンションの向かいにある暗がりに身を潜め、ずぶ濡れになりながらJの帰りを待っていた。

その時、私のスマホが激しく震えた。
夫のK司からの着信だった。
何度も何度も着信が続く。

鬱陶しくなって仕方なく電話に出ると、受話器の向こうから、地鳴りのような夫の怒号が響いた。

『M美!!!お前、これ一体どういうことだ!!!』

「え……?何が……?」

『何がじゃない!!!家にカード会社とサラ金から請求の封筒が山ほど届いてるぞ!!!
俺の書斎の引き出しから、預金通帳を盗んで勝手に全額引き出しただろ!!!
口座が空っぽになってたんだよ!!!
お前、将来のために貯めていた800万円使い込んだのか!!!』

夫の怒りの声が、雨の音にかき消されていく。

「……あはは…」
乾いた笑いが漏れた。

「K司、うるさい。今、Jくんとの大事な時間だから、邪魔しないで。」

『は!?何言っ……』

私は夫の言葉を遮り、通話を切ってそのままスマホを地面に投げ捨てた。
雨に打たれ、画面がバリバリに砕け散る。

もうどうでもよかった。
夫も、家も、借金も、人生も、何もかも。
私の世界には、Jくんしかいない。
Jくんさえいれば、Jくんが私を愛し続けてくれたら、それでいい。

その時、エントランスの前に一台のタクシーが止まった。
後部座席から降りてきたのは、Jだった。

だが、Jは一人ではなかった。
あの店で見かけたことがある、若くてきらびやかな容姿の太客の女の腰を抱き寄せ、一つの傘に入って親密そうに笑い合いながらエントランスへ向かって歩いていく。

「あ……」

その瞬間、私の中で何かがパチンと音を立てて千切れた。
一気に熱くなり、世界が真っ赤に染まったように見えた。
毛穴が逆立ち、血液が一気に噴き出したような、味わったことの無い狂気が私を突き動かした。

「Jくんーーーーーーーーーー!!!!」

激しい雨の中、私は絶叫しながら猛スピードで飛び出した。
ずぶ濡れで泥だらけの靴、髪は顔に張り付き、ファンデーションもマスカラもドロドロに剥がれ落ちている。
完全に理性を失った私は目を見開いた状態で、形振り構わずJと女を引き裂くように猛突進していた。

「キャーーー!?何!?何!?誰!?」
女性が悲鳴を上げる。

私はJが着ていた高級ブランドのジャケットをつかみ、狂ったように激しく胸ぐらを揺さぶった。

「Jくん!裏切ったの?ねぇ!私を愛してるって言ったじゃない!
私の何がダメなの!?結婚してるから!?だったらすぐに離婚するから!!お願い!!
私の…リボ払いの借金はどうするのよ!!サラ金からも何百万も借りて、夫の貯金も全部あなたにあげたのよ!!
全部全部あなたに捧げたの……
Jのために…Jのためにシャンパンタワーに変えたのに!!
なんでそんな女と一緒にいるのよぉーーー!!」

最初は驚いていたJだったが、次第に眉間にしわを寄せ、これまで私に見せたことのない心底ゴミを見るような恐怖と嫌悪に満ちた目で私を見下ろした。

『……おい!何だよ、このババア、気持ち悪りぃな!』
Jは私の腕を振り払った。

「あの女にそそのかされただけでしょ!?ねぇ、Jくん愛してる。」
私は、Jに抱きつきキスをしようとした。

『おいっ!!汚ねぇな!!触るんじゃねぇよ!!
何でここにいるんだよ!お前、ストーカーか!?おい誰か警察呼んでくれ!!』



私は濡れた地面に激しく叩きつけられ、泥水が顔にかかる。
地面に這いつくばりながら、Jの足にしがみつこうとする私をさらに追い払った。

「Jくん……Jくん……なんで、なんでそんな目で私を見るの……?私たちは愛し合って……」

『だから!こっちに来るんじゃねぇよ!マジで気持ち悪りぃ!何なんだよ、ったく!』



すると、遠くのほうからだんだんと近づいてくる、けたたましいサイレンの音が聞こえた。

パトカーが3台、救急車が1台、赤色灯の光が激しい雨の夜の街を不気味に照らし出し、周囲には野次馬も集まっていた。

警察官:「どうしました??大丈夫ですか??」

J:『この女が急に後ろから襲ってきたんだよ!!殴られたし!!こいつストーカー!!』

別の警察官が「立てますか?署の方でお話しを…。」と私の腕を引っ張り上げようとした瞬間、理性なんてとっくに消えていた私は、思わず警察官の顔を引っぱたいてしまった。

「公務執行妨害、ストーカーの疑いで現行犯逮捕する!」

「ちょ、ちょっと触らないでよっ!!彼が浮気したの!!私はJの彼女なんだから!!J-ーー!!何とか言ってよ!」

警察官たちに左右から腕を掴まれ、無理やり引きずり起こされる。
手錠がかけられた冷たい感触の中、マンションの自動ドアの向こう側へあの女と入っていくJの後ろ姿を、ただ泣きながら見つめることしかできなかった。
Jは私の方を一度も振り返ることは無かった。


数ヶ月後。

私は、夫のK司からは当然のように離婚を突きつけられ、着の身着のままで放り出された。
ネットニュースにも出てしまった事で、勤めていたパートもクビになった。
そして、両親や兄弟からも絶縁された。

手元に残ったのは、複数の消費者金融とクレジットカードのリボ払いのえげつない借金…。


現在の私は、地方の寂れた街の片隅にある家賃数万円のボロアパートに住んでいる。

かつてのような綺麗な服を着ることもなく、昼夜問わず過酷な肉体労働を掛け持ちし、ただ借金を返すためだけにボロボロな状態で何とか生きている。

鏡を見ると、そこには38歳とは思えないほど白髪が混じり、肌はカサカサに荒れ果て、目が完全に据わった一人の哀れな老女のような私の姿が映っていた。


夜、窓の外から遠くに聞こえる、車の走行音、通行人の声。
それが時折、あの眩しかった、大好きなJくんがいた大都会のキラキラしたネオンの瞬きのように聞こえることがある。


私は、誰もいない冷たい部屋の床に座り込み、震える声で虚空に向かってボソボソと呟き続ける。

「Jくん……Jくん……。今日も、私のこと……一番、愛してる、よね……?」



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